白内障手術では、濁ってしまった水晶体の中身を取り除き、その代わりとして「眼内レンズ」を挿入します。
この眼内レンズは近年、目覚ましい進化を遂げており、機能も価格もさまざまな製品が次々に登場しています。特に最近は、遠くも近くも中間もメガネなしでよく見えるという優れた海外製品も複数出てきています。
ただ、最新の高機能の眼内レンズが、すべての方にとって最善とは限りません。どんな眼内レンズが最善かは、その方の生活環境やライフスタイル、見え方の希望などによって変わってきます。また眼内レンズが進化しているといっても、若い頃の人の目とまったく同じという理想の眼内レンズは、残念ながら存在しません。どの眼内レンズにも一長一短があり、それぞれに特徴があります。
その意味では、眼内レンズ選びをすべて医師任せにしてしまうのはおすすめできません。患者さん自身も眼内レンズの大まかな特徴を知り、ベストな選択ができるように経験ある眼科医とよく相談をしてほしいと思います。

そこで今回は、眼内レンズ選びの基本として、「単焦点眼内レンズ」と「多焦点眼内レンズ」の違いについて解説します。
単焦点眼内レンズとは、焦点(ピント)が合う距離が1カ所の、保険診療で入れられるベーシックなレンズです。一方の多焦点眼内レンズは、焦点(ピント)が合う距離が2~3か所ある、高機能レンズです。保険診療ではありませんが、メガネなしで広い範囲が見えるようになるのが特徴です。それぞれの眼内レンズの特長を理解して、眼内レンズ選びに役立てていただければと思います。

焦点が合う位置はとてもよく見える!「単焦点眼内レンズ」5つの特徴

まず単焦点眼内レンズとは、焦点が合う位置が1カ所の眼内レンズです。
もともと30年ほど前までは、眼内レンズといえば単焦点レンズしかありませんでした。古くからある種類のレンズではありますが、最近の単焦点眼内レンズの性能はとても高くなっており、車の運転やスポーツをされず室内で過ごすことが多い方では、単焦点眼内レンズでも十分に快適な視力を得ることができます。
単焦点眼内レンズのおもな特徴には、以下のような点が挙げられます。

①焦点が合う位置が1カ所で、その距離はクリアに見える

単焦点眼内レンズは、「近く」「中間」「遠く」のどこか1つに焦点を合わせられます。ピントが合う距離はとてもクリアに見えるのが特徴で、色やコントラストもくっきりと見えます。設計や精密機器の製造など、細かいものがクリアに見える必要がある、デザイン関係などで色の違いを正確に見分けたい、といった場合は、単焦点眼内レンズの特長を生かせます。

②焦点が合う距離以外を見るときは、メガネで視力を補う

単焦点眼内レンズは焦点が合う距離が1つなので、それ以外の場所はぼやけて見えます。「遠方」にピントを選んだ場合、読書などで手元をはっきり見たいときは老眼鏡など近距離用のメガネで視力を補います。反対に「近方」にピントを選んだ人は、車の運転などで遠くを見たいときには近視用のメガネを使用することになります。高齢者では「中間」にピントを合わせ、足元の安全を確保するという選択もあります。ライフスタイルに合わせてピントの位置を選びましょう。
また強い近視がある人は単焦点眼内レンズで「遠方」にピントを合わせると、遠くはメガネなしでよく見え、近くも以前より薄いメガネで見えるようになります。

単焦点眼内レンズは焦点が合う距離が1つなので、それ以外の場所はぼやけて見えます

③乱視が強い人では、乱視矯正機能のある製品を選べる

乱視とは、角膜のひずみが原因でものが二重三重にぶれて見える、ぼやけるといった症状をいいます。年齢が高くなると角膜にひずみが出て、乱視が出てくる人が多くなります。乱視が強い場合は、単焦点眼内レンズの中でも、乱視矯正機能のあるトーリックタイプを選ぶと、乱視によるブレやぼやけを改善することができます。ただし、トーリック眼内レンズで矯正できるのは単純な角膜の歪みからくる直乱視です。目のケガや円錐角膜などが原因で複雑な歪みから来る不正乱視はトーリック眼内レンズで十分矯正することは出来ません。

④夜間の光のにじみやまぶしさ(ハロー・グレア)は少ない

多焦点眼内レンズは複数の焦点をつくるためにレンズに細かい溝があり、これが光を乱反射し、夜間の車のライトなどがにじんで見える(ハロー)、光が伸びてギラギラして見える(グレア)といった現象が起こります。それに対して単焦点眼内レンズは、そうした光のにじみやまぶしさがほとんどないため、夜間に車を運転するときなども自然に近い見え方になります。

⑤保険診療で入れられ、費用が抑えられる

単焦点眼内レンズを入れる白内障手術は、手術費用にも眼内レンズにも国民健康保険が適用になるため、費用が低く抑えられます。手術+眼内レンズの費用は、日帰り手術で片目で約6万円(3割負担)が目安になります。入院手術の場合は、入院期間や病院により異なりますが、その倍くらいになります。

以上のような特徴をふまえると、単焦点眼内レンズが向いているのは、以下のような条件に当てはまるケースといえます。

<単焦点眼内レンズをおすすめするチェックリスト>

□必要に応じて、メガネをかけるのは問題ない
□メガネ顔をいまさら捨てられない
□運転やスポーツなどの活動的なことをせず室内で過ごすことが多い
□色や細かい文字・図などが精密に見える必要がある
□緑内障、加齢黄斑変性など、白内障や老眼(老視)以外の目の病気がかなり進んでいる
□治療費を安く抑えたい

遠くにも近くにも焦点が合うのが「多焦点眼内レンズ」

人は、若いころは「遠方」「中間」「近方」の3つの距離を、自在に調節して焦点を合わせることができます。しかし年を重ねると、調節機能が落ちて手元がぼやける老眼になってしまったり、遠くと近くを行ったり来たりするテニスボールを目で追えなくなってしまうようになります。3つの距離の焦点をなめらかに調節して合わせることが、理想的な見え方といえるでしょう。
多焦点眼内レンズは、理想の見え方に近づけるべく、「遠方」「中間」「近方」の2~3カ所に焦点が合う、「メガネなしで遠くも近くもよく見えるようになりたい」という希望を叶えるレンズです。保険診療ではないため、費用は単焦点眼内レンズの数倍になりますが、老眼があまり進んでいない若年で白内障になった方、現役で仕事をしている方や車の運転やスポーツなど活動的に目を使う生活スタイルの方は、多焦点眼内レンズがおすすめです。

①焦点が合う位置が2~3カ所

現在、日本で認可され先進医療の対象になっている多焦点眼内レンズは「遠方・近方」または「遠方・中間」の2焦点の製品です。さらに最近になって多焦点眼内レンズの機能が向上し、「遠方」「中間」「近方」という3つの距離のすべてにピントが合う海外のトリフォーカル(3焦点)眼内レンズも登場しています。こうした海外のプレミアム眼内レンズを扱っている医療機関では、希望に応じ、高機能の多焦点眼内レンズも選ぶことができます。

②メガネなしで広い範囲がよく見える(老眼が治る)

多焦点眼内レンズは、「遠方・中間・近方」の2~3カ所にピントが合うため、メガネをかけなくても広い範囲がよく見えます。私たちは生活の中で、遠くの案内表示を見た後に手元の時計を見る、車を運転しながらカーナビを見るなど、さまざまな距離を行き来しながらものを見ています。これをいちいちメガネのかけはずしでピントを合わせるのは難しいです。遠近両用メガネも読書など動きが無いことには使いこなせますが、いろいろな距離を次々とみていく動きのある行為の中では使いこなせません。これらがメガネなしですべて見える快適さは、体験した人のほとんどが感激されます。仕事をしている人はもちろん、ゴルフ、テニスなどのスポーツや運転を楽しむといったアクティブな生活を送る人にとっては「メガネなしで見える」メリットは大きいといえます。

広い範囲がよく見える多焦点眼内レンズ

特に老眼があまり出ていない若い方に白内障が出ることが時々ありますが、単焦点眼内レンズを選ぶと一気に老眼になるため強く不便を感じます。このような比較的若い方にも、老眼にならない多焦点眼内レンズは強い味方です。

③知っておきたい術後のハロー・グレア

多焦点眼内レンズの特徴の1つに、夜間の車のライトなどがにじんで見える(ハロー)、光が伸びてギラギラして見える(グレア)という現象が挙げられます。これは先にも説明しましたが、複数の焦点をつくるためにレンズ表面に細かい溝が刻まれているためで、これが光を乱反射することで起こります。特に夜間に頻繁に車の運転をすると気がつきますが、気になる方と気にならない方がいます。白内障そのものでも程度の差はあれハロー・グレアを自覚します。
なお、最近ではハロー・グレアが少ない2焦点眼内レンズがでてきましたし、海外のプレミアム眼内レンズでは、このハロー・グレアをほとんど生じない多焦点眼内レンズもあります。

夜間の光のにじみやまぶしさ(ハロー・グレア)

④いろいろある多焦点眼内レンズ

特にヨーロッパで高機能多焦点眼内レンズの開発にしのぎが削られ、さまざまな多焦点眼内レンズが揃いました。
2焦点眼内レンズは、見えづらい距離が存在します。従来の遠近型の2焦点眼内レンズは、1mほどの中間距離が多少ぼけるという特性がありますし、遠中型の2焦点眼内レンズは手元30 cmが多少ぼやけます。
3焦点眼内レンズは遠中近の3カ所ともピントが合いますが、手元は海外基準の40cmまでしかピントが合わないものが多く、手元30cmまで見える3焦点眼内レンズは2種類だけあります。ただし、ハロー・グレアがそれなりにあるのが欠点です。
ハロー・グレアがほとんどない焦点深度拡張型の多焦点眼内レンズは若い方は手元30 cmまで見えますが、高齢になると40~50cmまでしかはっきり見えません。つまりパーフェクトな多焦点眼内レンズはつくることが出来ないということです。大切なのは、手術時の年齢、目の状態、自動車運転の有無、仕事の内容、趣味・スポーツなどあらゆる条件を吟味し、その方に合った多焦点眼内レンズを選ぶことです。そして、うまくマッチさせれば大きな満足感を得ることが出来るのです。

⑤ほとんどの多焦点眼内レンズは乱視矯正機能がある

多焦点眼内レンズにも、乱視矯正機能があるトーリックタイプがある製品がほとんどです。乱視矯正機能の有無や、どの程度の乱視に対応するかは製品によって異なるため、眼科医とよく相談して眼内レンズを選んでください。

⑥オーダーメイド多焦点眼内レンズもある

1人ひとりの患者さんの目に応じた眼内レンズをオーダーメイドで作成してもらえる多焦点眼内レンズもあります。実は通常の眼内レンズは0.5ジオプター刻みでしか用意されていません。ジオプターとは光を曲げる力(屈折力)を表す単位です。ですので、1人ひとりの最適のレンズを選ぶことは難しく、用意されているジオプターの中で一番最適に近い度数を選ぶことになります。例えば、最適が15.3ジオプターのレンズだとしても、15.0と15.5のレンズしかありませんので、近い15.5を選ぶことになります。これに対してオーダーメイドが出来る多焦点眼内レンズは、15.3をつくってくれるのです。乱視の矯正でも同様で、その方の乱視にぴったり合ったトーリック機能を作成してくれます。

⑦多焦点眼内レンズに合わない目もある

多焦点眼内レンズの機能が十分に発揮できない目が存在することも確かです。円錐角膜の目、近視矯正手術である放射状角膜切開を受けた目、けがなどで角膜に不正乱視が強い目は多焦点眼内レンズを用いると矯正視力も十分でないことがあります。高齢の方で瞳が小さすぎる方も多焦点眼内レンズを入れても、遠くはよく見えるが近くはあまりはっきり見えない、ということが起こりえます。高齢者でも多焦点眼内レンズの機能が十分発揮できる方もいらっしゃりますので、大事なのは目の状態をしっかり検査して100%は無理としても可能な限り相性をみさだめることです。

⑧すでに単焦点眼内レンズが入っている方にも多焦点機能を追加できる

アドオンレンズ(AddOn IOL)と呼ばれる2枚重ね可能な眼内レンズがあります。すでに単焦点眼内レンズが入っているが、強い乱視が残っていたり、多焦点に変えたいという願望がある場合、乱視矯正用のアドオンレンズや多焦点アドオンレンズを用いることで乱視を減らしたり、多焦点機能を獲得したりすることができます。自由診療になります。

⑨先進医療対象または自由診療のため、費用は高額に

多焦点眼内レンズは、単焦点眼内レンズに比べると治療費が高額になります。
先進医療に認定されている多焦点眼内レンズでは、白内障手術前後の診察や検査代には保険が適用されるため、やや負担が少なくなりますが、それでも片目で数十万円ほどが一般的です(生命保険の先進医療特約を付けている方は保険金請求ができます)。ここ数年、多焦点眼内レンズが普及して件数が増えたため多焦点眼内レンズを用いた白内障手術を除外する先進医療特約契約が始まっています。
先進医療に認定されていないヨーロッパの多焦点眼内レンズは、検査から手術、眼内レンズ自体の費用まですべて自由診療になります。費用は高く付きますが、性能は先進医療対象のものよりも良いため選ばれる患者さんもおられます。
多焦点眼内レンズの治療費は一気に必要な支出としては高額ですが、眼内レンズは維持費も買い替えも必要なく、生涯の間使い続けることができると考えるとけっしてコスパは悪くありません。メガネのいらない、快適な見え方で送る生活を手に入れられるなら、それは第二の人生のスタートとすらいえるでしょう。自動車運転も、スポーツも、美しい風景も、自由に楽しむことができるのです。

以上のような特徴をふまえると、多焦点眼内レンズが向いているのは、以下のような条件に当てはまるケースです。

<多焦点眼内レンズをおすすめするチェックリスト>

□できるだけメガネをかけずに生活をしたい
□仕事や生活で、遠方~近方のさまざまな距離を見る
□スポーツや旅行などを楽しみたい
□よく車を運転する
□若くして白内障になった方(特に、老眼が出る前)
□細かい文字や精密なものを見る特殊な仕事に就いていない
□重症な緑内障や黄斑の病気が無い
□納得できる治療には、費用をかけてもよい

板谷院長のひとことアドバイス

眼内レンズはベーシックな単焦点眼内レンズから、高機能な多焦点眼内レンズまでたくさんの種類があり、ライフスタイルや仕事によって選べる時代となりました。これまでの人生でどんなことを楽しんできたか、そしてこれからの人生でどんなことを楽しみたいのか、じっくり考えて選んでください。そうすれば、きっとあなたが望む生活を支えるビジョンが手に入るはずです。

まとめ

  • 眼内レンズには、保険診療で入れられる「単焦点眼内レンズ」と、自費診療ですが老眼の治る「多焦点眼内レンズ」があります。
  • 単焦点眼内レンズは、焦点が合う距離が1つで、焦点が合う距離はとてもシャープに見えるのが特徴です。ライフスタイルに応じて焦点の位置を選びます。
  • 多焦点眼内レンズは、焦点が合う距離が「遠方」「中間」「近方」のなかの2~3カ所で、メガネなしで広い範囲が見えます。現役世代やアクティブな生活を送る人におすすめです。

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執筆者プロフィール

はんがい眼科院長 板谷正紀

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

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