本記事は、2020年4月27日に再更新いたしました。

私たちは目でものを見て生活をしていますが、地球上に生き物が登場した際には目は持っていませんでした。目ができたのはカンブリア紀(5億4200万年前から5億3000万年前の間)。初めて目を持つようになった生き物は三葉虫だといわれています。昔、学校の理科室で化石を見たことがある人も多いかもしれません。目ができたことで、カンブリア爆発と呼ばれる生物の多様化が起こったとする説があります。この時期に脊椎動物をはじめとする今日見られる動物界のほとんどの門 (分類学) が出そろいました。

その後、さらに生物は進化をとげ、黄斑(おうはん)をもった人類の祖先が登場します。黄斑は、角膜から2ミリ余り奧にある直径1.5 ミリほどの小さな組織です。その中心に「フォベア(中心窩;ちゅうしんか)」とよばれる視細胞が集まっている部分があり、高い視力、色彩視、立体視などをもたらしました。黄斑の持つ力のおかげで人は文明を持ち、文化的な存在に進化できたと私は思います。

目の進化とはどのようなものだったのか、みていきましょう。

明暗を見分けるセンサーがさらに進化し、目をもった生物が登場

地球は今から46億年前に誕生し、40億年前くらいに海の中で最初の生命が生まれました。それは単細胞生物で、今から15億年前くらいに多細胞生物が生まれました。この多細胞生物はミミズのご先祖さんのようなもので、光を感じる力はなかったようです。

そして5億4200万年前くらいに「カンブリア爆発」という爆発的な進化によって、生物は一気に多様化をみせます。アンドリュー・パーカーは、カンブリア大爆発の引き金は、目の誕生であるといいます。カンブリア紀に地球に注ぐ太陽光が増して「明るいか暗いか」を感じるセンサー、すなわち原始の目が生まれました。原始の目を持った最初の生き物が三葉虫だといわれています。目の誕生は、周りに存在す生命体を見ることを可能にしましたので、相手を食べて生きる捕食者が生まれ、大きなあごや歯が進化したというわけです。捕食される側は、易々とは食べられないように身体の表面を硬くして装甲を身につけたり、とげを発達させたりと進化するわけです。これがさまざまに進み「カンブリア爆発」を起こしたと考えられているのです。

霊長類の祖先は、薄暗い中でもよく見える大きな目を持っていた

そして時代はさらに流れ、6600万年前、地球に巨大な隕石がぶつかり、栄華を極めていた恐竜が絶滅します。恐竜は絶滅しましたが、ほ乳類はかろうじて生き延びます。恐竜絶滅から900万年後に登場したのが、霊長類の祖先「カルポレステス」です。この頃、地上には全長2メートルを超す巨大なほ乳類(恐鳥類)「ディアトリマ」(飛べず地上を歩行していた)という肉食動物が跋扈しており、カルポレステスは、ディアトリマに食べられないよう木の上でこそこそと生活していました。カルポレスレスが暮らしていたのは広葉樹の森でしたが、この頃の広葉樹は貧弱で、その木になっている果実を食べ尽くすと、一旦地上に降りて、また別の木に登るという生活をしていました。カルポレステスは、ディアトリマが活動していない夜に捕食活動をするため、暗闇でもよく見える大きな目を持っていました。哺乳類は強大な恐竜が眠る夜の世界に追い込まれ、長いときが流れるうちに色や形を見分ける能力をいったん失い、代わりに明暗を見分ける目へと進化していったのです。

大陸大分裂により温暖化が進行。広葉樹が巨大化し、霊長類の楽園に

実は、恐竜絶滅後の地球は、地殻変動が頻繁に起こり、大規模な気候変動が続いていました。

5500万年前にカルポレステスが生まれた頃、巨大な針葉樹の森の中に貧弱な広葉樹が生えているという植生だったのですが、大陸大分裂が起こり、地球環境の大変動が起きて、温暖化が続き、広葉樹が巨大化したのです。広葉樹は枝を横へ横へと伸ばしていき、枝が重なり合って、そこに「樹冠(じゅかん)」とよばれる果物や柔らかい葉がふんだんにある豊かな空間ができました。この樹冠により、霊長類は枝と枝とを飛び移れるようになり、一度地上に降りて、また木を登らなくても果実を採れるようになります。樹冠は霊長類の楽園となります。

まばらな針葉樹林から樹冠のある広葉樹へ

広葉樹の楽園で暮らすうち、目が正面に並ぶことで立体視できるように

広葉樹の樹冠で暮らすうち、霊長類の目は人と同じように正面に並ぶようになりました。このおかげでモノとモノとの距離感が正確に掴める「立体視」ができるようになります。飛び移る枝までの距離がよく分かるようになったのです。樹冠での枝の上の空間を生活の場としていった霊長類は、その樹冠という環境圧が目の進化をもたらしていくのです。

左がカルポレステス、右が樹冠で暮らすようになったショショニアスという種類の霊長類です。カルポレステスでは横に付いていた目がショショニアスでは正面に並ぶことで立体視ができるようになりました。

大陸大分裂により寒冷化が進行。生き延びるために目がさらに進化する

霊長類が広葉樹の森で楽園生活を謳歌していた5000万年前、また大陸大分裂が起きます。今度は地球全体が寒冷化し、豊かだった広葉樹の森は、地球の一部にしか生えないようになってしまいました。またしても霊長類に大きな試練が訪れたのです。

この地球寒冷化が、霊長類の目の進化を促します。寒冷化により少なくなってしまった果実などを、他の生き物と奪い合わないといけなくなったのです。

この頃の霊長類の骨格からはある特徴が見て取れます。それは目が収まっている顔面骨のくぼみ、すなわち眼窩、の奥が空洞ではなく「眼窩後壁(がんかこうへき)」という壁ができたのです。新しいタイプの霊長類には眼窩後壁があるのですが、旧タイプの霊長類は眼窩の奥が空洞なのです。

目の奥に壁があることは眼球に中心窩があることの証左

眼窩後壁があることは、目にフォベア(中心窩)と呼ばれる、視細胞の集中している部分があったことを意味するのではないかといわれています。視細胞の数が多ければ多いほど、しっかりとものを見ることができます。この視細胞が限りなく密集したのが中心窩です。しかし、中心窩ができると眼球はどこを向いていてもよく見えるというわけではなく、ものを見るときに見たい方向に眼球が安定しないと、みたいものに視点を中心窩に集中させることができません。そのため眼球をしっかり支えるために、眼窩後壁ができたのではないかと考えられています。

中心窩は、黄斑(おうはん)と呼ばれる、視細胞の集まった部分のさらの中心にあってくぼんでいるため、中心窩(ちゅうしんのくぼみの意味)とよばれています。我々人が、日常よく見えると思っている範囲は黄斑に相当するのです。
 

クリアな高い視力により、お互いの表情も分かるように

黄斑を進化させた霊長類はクリアな高い視力を獲得し、他の霊長類に先んじて果実を見つけることができるようになり、寒冷化の中でもみごと生き延びていきます。

新タイプの中でも真猿類(しんえんるい)と呼ばれる、ゴリラやチンパンジーには豊かな表情があります。高い視力があるからこそ、相手の表情が見分けられるようになったことにより、どんどん表情筋が発達していきました。

豊かな表情は、お互いの気持ちを瞬時に伝えられることに加え、群れの中でも秩序を作り上げるのに役立っています。表情があることで仲間との強い絆を生み、ともに外敵と闘うようになっていきました。群れは社会へと進化していったのです。

白目があるのは人類だけ。目に表情が宿るように

クリアな高い視力を備えた霊長類の中でも、人にしか存在しないものがあります。それは白目です。白目があることで、何を見ているか、誰を見ているかハッキリわかります。何を見ているか他の生き物にわかることは、行動が読まれてしまうので不利なのですが、人類は、「あなたを見ていますよ」とハッキリ表現するために白目を持つようになりました。目に表情が宿るようになったのです。表情や意図を悟られても人は社会や法律で守られていますので、滅多なことでは闘争には発展しません。むしろ目の表情が信頼や愛をはじめとする感情力を高め、豊かな社会生活を築き上げるのに貢献しているのです。

黄斑(中心窩)という目の2cm奧にある小さな存在が、人にクリアなビジョンをもたらし、表情筋を発達させ、人を人たらしめているのだといえます。

板谷理事長のひとことアドバイス

目の進化は人の進化に重要な役割を持っていました。そして、人の鮮明に見えるチカラ(黄斑)がヒトが人たる存在に至らしめました。奇跡の黄斑を大切にしていきたいですね。

まとめ

  • 目の誕生が生物の爆発的な多様化が起きたカンブリア大爆発の引き金と考えられています。
  • 幾たびかの大陸大分裂により、気候変動が起こりその結果、植生の変化が目の進化を促しました。
  • 温暖化により広葉樹が巨大化し樹冠が生まれると、霊長類には楽園といえる環境が訪れ、その中で目が正面に並ぶようになり、立体視ができるようになりました。
  • 次第に地球が寒冷化すると、生き残るために果実を見つけやすいように目に視細胞の集中している部分、フォベア(中心窩)が生まれ、高い視力を獲得しました
  • 真猿類はクリアな視力を得ることで表情筋が発達し、お互いに表情でコミュニケーションをするようになります。
  • 表情が生まれたことで群れは社会となっていきます。
  • 霊長類の中でも唯一人間にあるものは白目で、誰を見ているのかがハッキリ分かる(意思表示がハッキリできる)ようになりました。目に表情が宿ったのです。

執筆者プロフィール

医療法人クラルス はんがい眼科 理事長 板谷正紀

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

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