本記事は、2020年1月14日に再更新いたしました。

病気にかかったときに処方されるお薬 。臨床試験を経て世に送り出された薬剤は、治療に効果的であることにはまちがいありませんが、目に悪影響を及ぼす副作用を引き起こす場合があります。
また日常生活の中で使っている洗剤や消毒薬などの中には、誤用されることによって目に障害を与える成分が入っているものがあります。
ときに「毒」にもなる薬品から目を守るために知っておいていただきたいことをご紹介します。

強力な効果と表裏一体の副作用がある「ステロイド」

結膜炎や花粉症などにも使われるポピュラーな薬

ステロイド薬は、内服薬や外用薬として抗炎症や免疫抑制などに使われるポピュラーな薬です。しかし、ステロイド薬は、炎症を強力に抑えてくれる有益な薬剤である一方、副作用も多様に起こしうるという特徴も併せもっています。
目の病気でも、眼瞼炎や結膜炎、ぶどう膜炎などに対してよく使われる薬剤です。しかし、眼科で処方されるかぎり、眼科医が目に対する副作用の有無をチェックしながら使いますので、早期に気がつくことができます。必要の無い長期投薬は避けます。

問題は、目以外の病気で使用される場合、眼科に受診されていないと、副作用が強く出てから気がつくことになってしまうことです。さらに、問題なのは、例えば、痔のお薬などにもステロイドが含まれているものがあり、知らず知らず長期に使用してしまっていることもあることです。

白内障の発症に関係する

ステロイド薬を長期に使用した人には、水晶体の後ろ側が濁るタイプの白内障「後嚢下白内障」が発症することがあります。発症のしくみはまだよくわかっていませんが、ステロイドの容量が多いほど、長く使用するほどリクスが高い、とする報告もあります。
どうしても長期にステロイド薬を服用しなければならない場合は、眼科を定期的に受診することをおすすめします。白内障予防点眼薬がステロイドによる後嚢下白内障の進行を抑える効果があるかどうかは不明です。

高齢者の場合は、白内障手術で問題なく治ります。50歳以下の方は、もちろん白内障手術で視力は取り戻せますが、一晩にして老眼が完成し調節力が無くなるのが問題です。
多焦点眼内レズを用いれば、この問題が緩和できますが、その選択はご本人次第で、ライフスタイルや仕事を考慮して決めます。


【後嚢下白内障の目】

緑内障の発症にも関係する

ステロイド薬は、緑内障を引き起こすことがよく知られており、ステロイド緑内障といわれます。一部の方に、眼圧を上昇させる作用があるからです。ステロイド薬で眼圧が上がりやすい方を、ステロイドレスポンダー(steroid responder)といいます。

ステロイドによる眼圧上昇は、点眼が一番起こりやすいのですが、内服や吸入薬、皮膚科の塗り薬など全身使用でも起こることは知っておいていただきたいです。眼圧の上昇は、個人差だけではなく、ステロイド薬の強さや用量、頻度、そして投与経路に依存するといわれています。
使用してから数週間で眼圧の上昇が起こる場合もあれば、何ヶ月も経って起こる場合もあります。頭痛や目の痛み、目のかすみなどが現れたら、眼科で眼圧検査を受けることは当然ですが、その段階では遅いこともあります。
初期の段階であれば、ステロイド薬の服用を中止すれば1~3ヶ月以内に眼圧は正常化します。時間が経っていると、ステロイド薬を中止しても眼圧が正常にならないリスクがあります。高眼圧で症状が出るのは50 mmHgを超えるような高眼圧であって、少々の眼圧上昇では無症状であるため、症状が出てから眼科受診では遅いといえます。

また、もうひとつ重要な着眼点は、高眼圧が続いて視神経が傷つくと、本当の緑内障になってしまい生涯経過観察や治療が必要になることです。いったん視神経が傷つくと視野障害が進行していくリスクがあるからです。

以上より、ステロイドを長期使用する場合は、必ず眼科で経過観察を受けていただきたいと考えます。

残念ながら、ステロイドを休薬しても眼圧が正常化しない場合には、緑内障点眼薬を開始します。点眼でコントロールできないときは、レーザーを用いた治療(選択的レーザー線維柱帯形成術)、または緑内障手術(線維柱帯切除術;はんがい眼科HPの緑内障手術詳細はこちら)を行います。さいわい、このような外科治療はステロイド緑内障の眼圧を下げる効果が高いのです。


【高眼圧の目】

網膜剥離を引き起こす

さらにステロイド薬には、「中心性漿液性脈絡網膜症」 を引き起こす可能性も知られています。
中心性漿液性脈絡網膜症は、光を感じる神経の膜である網膜の中で最も視力に関係する部分である「黄斑」に網膜剥離が発生する病気です。脈絡膜の血管から血漿成分が漏れ出して黄斑を中心に網膜の下に溜まることによって、網膜が剥離してしまうのです。

溜まった血漿が3~6ヵ月でひいて自然に治まることも多いのですが、経過が長びいたり、再発が繰り返されると、剥離七億手も視力障害が残ることがあります。
このため、3ヶ月経っても軽快が無い場合は、積極的な治療を行います。漏れが黄斑の中心である中心窩から離れている場合は、症状によりレーザー光凝固術により漏れを止めます。
中心窩付近が漏れている場合は抗VEGF薬硝子体注射や光線力学療法を行いますが、本疾患では保険診療でカバーされていないため自費負担が発生する場合があります。

左上、眼底写真:右上2枚、蛍光眼底造影(噴出する漏れが観察される);下、OCT画像(網膜の下に漏れ出た血漿が溜まっている)

異常を感じたらすぐに眼科医に相談を

以上のように、ステロイド薬は目に対してさまざまな影響を与える薬剤ですので、副作用に気をつけながら用いることが大切です。

しかし、炎症を抑える効果が強く、さまざまな病気の治療には欠かせない薬であり、いたずらにステロイド薬は怖いというイメージで使用を頭から避けるのではなく副作用に向かい合いながら、うまくステロイド薬のチカラを使うというスタンスが重要と考えます。
ステロイド薬の各副作用の出やすい人と出にくい人がありますが、予測できませんので、一時的にではなく長期にステロイド薬を服用することになった場合は、必ず眼科を受診して経過観察を受けてください。
眼圧上昇は、よほど高くならない限り無症状であり自分で気がつくことができませんので、症状が出てからでは遅い副作用もあることをお知りおきください。

「抗コリン薬」は緑内障患者に使える?使えない?

胃腸の疾病には有効な「抗コリン薬」ですが・・・

抗コリン薬は、副交感神経を亢進させるアセチルコリンを抑える薬です。副交感神経が活発になると、胃や腸といった消化器官に痛みや痙攣が生じます。
抗コリン薬は、こうした症状を改善する働きを持つ薬剤です。胃が痛いときにしばしば処方される「ブスコバン」は代表的な抗コリン薬です。ところが、この抗コリン薬には、瞳孔括約筋や毛様体筋を弛緩させる作用があり、ある種の目の特徴を持つ人には、急激な眼圧上昇を引き起こすリスクがあるため、要注意の薬剤なのです。

閉塞隅角(狭隅角)タイプの方は要注意

眼圧を調節する房水(目の中の水分)の排出口が狭い状態にある「閉塞隅角緑内障」の患者さんは、抗コリン剤を使用することで、急激に眼圧が上昇する可能性があります。
抗コリン薬の作用により、瞳孔が拡大し、隅角が虹彩の根元によりふさがれてしまい房水の逃げ道が無くなって、発作性の眼圧上昇が引き起こされてしまうリスクがあるのです。これを急性緑内障発作といいます。
急激に眼圧が上がると激しい眼痛、頭痛、吐き気、かすみ目が襲ってきます。治療までに手間取ると視神経のダメージが強くなり失明に近づいてしまいます。

問題は、閉塞隅角緑内障という診断がついていない閉塞隅角の方がかなり潜在することです。全く自覚症状が無いため眼科を受診しない場合も多いのです。
若い頃メガネいらずだった遠視や正視の方が中高年になると一定のリスクがあります。眼科で検査すればすぐわかるのですが。

抗コリン薬は、実は消化性潰瘍治療薬、便秘治療薬、気管支喘息治療薬、頻尿治療薬、抗パーキンソン薬など幅広い薬剤に含まれており、身近に使用する可能性があります。
添付文書をみると「禁忌:緑内障のある方」と記載されています。これも誤解の元で、禁忌なのは閉塞隅角の方だけなのです。隅角が狭くない開放隅角緑内障の方は問題なく使用できます。最近では、「禁忌:閉塞隅角のある方」という記載に変更する流れになりつつあります。

自分が閉塞隅角かどうかは知っておきたいものです。

開放隅角と閉塞隅角のイメージイラスト

失明や死亡事故も!取り扱い注意の薬品「消毒用アルコール」

「お酒」として飲む?!

最後に、本来の目的以外のことに用いると大きな弊害をもたらす物質、消毒用アルコールについてふれさせていただきます。
消毒用アルコールは、その名のとおり、医療機器を消毒する際などに使用されるアルコールです。ところが驚くことに、この消毒用アルコールを「お酒」として飲用する人たちがいるのです。

視神経を障害する

日本では第二次世界大戦の終戦直後、メチルアルコール(メタノール)入りの密造酒「カストリ」が出回り、これを飲用して多くの人が失明しました。最近では、2016年12月にロシアでメタノール入りの入浴剤をお酒の代わりにして飲んだ住民49人が死亡する、という事故が発生しています。

メチルアルコールは、体内に取り込まれるとホルムアルデヒドとなり、それから蟻酸(ぎさん)という毒性の高い物質に変化します。蟻酸(ぎさん)は神経線維の髄鞘(ずいしょう)を破壊したり、たんぱく質分子を阻害したりするため、視神経が障害されて失明に至ることになります。
メチルアルコールによる中毒には、解毒剤「ホメピゾール」の点滴や「血液透析」 などによる治療が行われます。
一時的な慰みを求めた代償として、とてつもなく大きな苦しみを背負うことになる消毒用アルコールの誤用。厳重に警戒する必要があります。

板谷理事長のひとことアドバイス

ステロイド薬も抗コリン薬も、身近に存在し使う可能性のある有効なお薬です。自分にとっての副作用のリスクを知ることで、問題を最小限にしていきましょう。

まとめ

  • ステロイド薬は炎症性疾患に対して高い効果を持つお薬ですが、その一方で多様な副作用のリスクを併せ持つため、チェックしながらの使用が必要です。
  • ステロイド薬は、白内障や緑内障や中心性漿液性脈絡膜網症の発症に関係します。
  • 抗コリン薬は、身近に存在し、「閉塞隅角」タイプの方に、急性緑内障発作を引き起こすリスクがあります。
  • 消毒用アルコールを飲用することで失明や死亡に至る事故が起きています。

執筆者プロフィール

医療法人クラルス はんがい眼科 理事長 板谷正紀

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

公式サイト

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